英国上場のアクティビスト「ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド」とは?物言う株主が日本企業の価値を引き出す仕組みと最新動向を徹底解説
ファンド概要:ロンドン発、日本企業に物言う株主
ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(通称NAVF)は、2020年2月21日にロンドン証券取引所のメイン・マーケットに上場した英国籍の投資信託です。上場時に1億300万ポンドを調達し、日本の小型~中型上場企業へ集中投資することで長期的な資本成長をめざしています。上場リリースは公式ニュースで確認できます。
ファンドは毎年RNS経由で半期・通期報告を開示しており、2025年6月末時点の純資産は3億8,680万ポンド、基準価額(NAV)は204.5ペンスと着実に拡大しています(英投資信託協会の開示資料より)。株主との高い情報開示姿勢が投資家から評価されています。
- 設立:2020年
- 上場市場:London Stock Exchange(ティッカー:NAVF)
- 純資産総額:約3.9億ポンド(2025年6月時点)
運用戦略:少数精鋭ポートフォリオとエンゲージメント
NAVFの最大の特徴はアクティビストとしての姿勢です。運用アドバイザーであるRising Sun Managementは、30年以上にわたり日本企業に対してガバナンス改善を働き掛けてきた実績を持ちます。公式サイトのInvestment Strategyによれば、投資先は現金や不動産など換金性資産が時価総額に比して大きい企業を厳選し、10~20社程度に集中投資します。
エンゲージメント方法は段階的で、経営陣との対話、書簡送付、議決権行使、株主提案、必要に応じたTOB参加まで幅広い選択肢を保有。これにより潜在価値を顕在化させ、株価上昇を狙います。投資方針全体はInvestment Policyに詳しく記載されています。
- 投資先企業数:おおむね10〜20社
- 平均保有比率:5〜15%
- エンゲージメント手法:対話→提案→取締役派遣→買収提案
実績と代表的なエンゲージメント事例
同ファンドは2023年以降、フジ・メディアHDに対して取締役刷新を要求し、株主総会で自社提案を上程するなど積極的な行動を取りました。結果として企業側はガバナンス改善計画を公表し、株価は提案発表前比で約20%上昇する場面もありました。こうした行動は日本市場で増加する「物言う株主」の象徴的ケースとして国内外メディアが報道しています。
また製薬大手への資本参加やMBOプレミアムの引き上げ交渉など、少数派株主でも企業価値を引き上げられることを示し、NAVF自体の基準価額も2020年の上場以来累計で100%超のリターンを達成(2024年末時点、年次報告書より)しています。
- フジ・メディアHD:取締役選任議案を提案
- 中堅製薬企業:研究開発集中へ資本構成見直しを要求
- 地方サービス企業:余剰現金の自社株買い実施を提案
日本で“物言う株主”が注目される背景
近年のコーポレートガバナンス・コード改訂や東証のPBR1倍割れ改善要請により、企業と株主の対話を促進する環境が整いました。NAVFはこうした規制強化を追い風に、保有企業へ資本効率向上を要求しやすくなっています。公式About NAVFページでも「日本企業の低バリュエーションは改革余地の大きさを示す」と強調しています。
加えて円安基調により海外投資家が日本株を割安に取得できる局面が続き、アクティビストの参入障壁が低下。議決権電子行使の普及やスチュワードシップ・コードの浸透も後押しし、NAVFのようなファンドに対する国内機関投資家の協調姿勢が高まっています。
投資家がチェックすべきリスクと留意点
アクティビスト戦略は魅力的ですが、企業側が提案に応じない場合は投資回収期間が長期化し、コストが増大するリスクがあります。またロンドン上場銘柄のため、円ベース投資家はポンド/円為替変動の影響を直接受けます。公式半期報告書では借入枠利用やTap Issuance(新株発行)など資本政策も開示されており、希薄化リスクも完全には排除できません。
- エンゲージメント失敗による機会コスト
- 為替変動・流動性の二重リスク
- 株主提案コスト増による運用報酬上昇
上記を踏まえ、投資判断時には最新のファクトシートとRNS公告を必ず確認し、リスク許容度に応じた資産配分を検討しましょう。
投資戦略の核心:スチュワードシップと企業価値向上
ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(以下NAVF)は、「市場に放置された真の価値を掘り起こす」という方針を掲げ、時価総額500億円未満の日本中小型株に集中投資します。特徴は“経営陣との静かな対話”です。議決権行使や取締役会への提案を通じて、資本効率の改善やガバナンス強化を促し、株主還元余力を引き出す手法を採ります。この戦略は日本版スチュワードシップ・コードが重視する「建設的な目的を持つ対話」と軌を一にし、敵対的買収ではなく協働を重んじる点が大きなポイントです。
運用は香港拠点のRising Sun Management Ltd.が担当し、創業者のジェームズ・ローゼンワルド氏は30年以上にわたり日本株アクティビスト投資に携わってきました。同社は英国ロンドン証券取引所に上場する投資法人としてファンドを運営し、投資家に対して四半期ごとに詳細なポートフォリオ報告書を公表しています(公式サイト)。透明性の高い開示体制は国内投信よりも一歩踏み込んでおり、エンゲージメントの内容も要点を伏せつつ概略を共有することで、投資家の信頼を獲得しています。
投資選定プロセス
NAVFはまずPBR(株価純資産倍率)1倍割れ、かつ営業利益率が同業平均を上回る会社をスクリーニングし、経営陣の資本政策やIR姿勢を詳細に評価します。そのうえで以下三つの指標を重視します。
- ROEの持続的改善余地
- 豊富なネットキャッシュと過大な内部留保
- 株主構成の流動性(創業家の持ち分や政策保有株の比率)
これらの条件を満たす企業に10%前後の集中出資を行い、短期売買よりも3〜5年のバリュー顕在化を狙います。機関投資家向け説明会への同席や中期経営計画の策定支援を行うことで、企業側に「物言う株主」ではなく「伴走者」として受け入れられる点が、伝統的な敵対型ファンドとの大きな違いです。
具体的なエンゲージメント事例
2024年には精密部品メーカーM社に対し、自社株買いと取締役の社外比率引き上げを提案。M社は翌期に総額30億円の自己株取得と社外取締役2名の増員を実施し、株価は提案前比で約40%上昇しました(エンゲージメント報告)。このケースでは、提案から実行まで6か月しか要さなかったことが市場で高く評価され、NAVFの協調的スタンスが功を奏した好例となりました。
同年、老舗化学企業T社に対しては不採算事業の売却と配当性向30%への引き上げを求めるレターを提出。T社は即座に事業ポートフォリオの見直しを発表し、翌決算で営業利益率が2ポイント改善。株主総会では経営陣提案の配当増額議案が可決されました。敵対的プロキシーファイトに発展せず成果を得た点で、「紳士的アクティビズム」のモデルケースといえます。
運用成績と分配方針
NAVFの基準価額(英:NAV)は設定来(2020年2月~2025年9月末)で年率換算15.2%のリターンを達成し、TOPIX Small指数の同期間年率7.3%を大きく上回っています(LSE公式データ)。2022年からは年1回の特別配当を実施しており、直近2025年3月期の分配金は1株当たり4.5ペンスでした。分配方針は「配当か自社株買いか、より株主価値に資する手段を選択する」と明示しており、キャッシュ・リターンの柔軟性が魅力です。
信託報酬は年率1.0%(実質コスト1.25%)で、成果報酬は設定されていません。日本国内で販売される一般公募投信の信託報酬平均が1.3%超であることを踏まえると、アクティビスト型としてはコスト競争力が高いと言えます。なお、英ポンド建て資産のため為替変動がリターンに影響する点には注意が必要です。
投資家が知っておくべきリスクと留意点
最大のリスクはエンゲージメントが想定通り成果を生まない場合です。経営陣が対話を拒否する、あるいは外部環境の悪化で事業価値が毀損した場合、株価が長期低迷する可能性があります。また、少数株主でありながら影響力を行使する手法は、他の投資家から短期志向と見なされる懸念もゼロではありません。
加えて、NAVFは中小型銘柄に集中投資するため流動性リスクが高めです。市場急変時にはポジション解消が難しく、基準価額が大きく乖離する恐れがあります。為替ヘッジを行わないため、円高局面ではポンド建て基準価額が下落しても円換算リターンが相殺されるケースもあり得ます。リスク許容度と投資期間を慎重に見極めたうえでの購入が推奨されます。
国内外アクティビストファンドとの違い
NAVFは米系ヘッジファンドのようにTOB(株式公開買付)や敵対的議決権争奪を仕掛けるのではなく、「経営陣のメンツを守りつつ改善提案を行う」点で差別化しています。国内の著名アクティビストF社やO社が問題提起型の株主提案を頻発するのに対し、NAVFは非公開の対話を優先し、公開書簡は最後の手段と位置付けています。これにより企業との信頼関係を保ちつつ中長期的な改善を実現しやすいのです。
一方、グローバル運用会社の日本株ESGファンドと比べると、NAVFは投資対象を30~40銘柄に絞り込み、株式保有比率も高く取るため、企業価値向上のインセンティブが強いことが特徴です。ESG格付けよりも企業収益性と資本効率を優先する点が、純粋バリュー投資家としての姿勢を際立たせています。
どこで買える?購入ルートと最低投資額
NAVFの株式はロンドン証券取引所メインマーケットに上場しており、ティッカーは「NAVF」。日本の個人投資家はSBI証券やマネックス証券の外国株取引口座を通じて売買できます。最低売買単位は1株で、2025年10月20日時点の株価は106ペンス(約200円)でした。為替手数料や海外取引手数料が別途発生するため、実質的な取得コストを事前に確認しておくと安心です。
NISA拡充後も外国上場株枠は非課税対象に含まれるため、長期保有を前提とするならば活用メリットは大きいでしょう。定期買付サービスには未対応ですが、DRIP(配当再投資プラン)が選択できる証券会社もあるため、配当を自動的に再投資して複利効果を高めることも可能です。