2025年3月の地銀決算、金利上昇を追い風に増益続く

―「金利ある世界」への転換がもたらす地方銀行の変化と展望
2025年3月期の地方銀行(地銀)決算は、長らく続いた超低金利時代からの転換を象徴するものとなりました。日本銀行による政策金利の引き上げを背景に、地銀各行で増益が相次ぎ、金融業界に新たな潮流が生まれています。その一方で、預金獲得競争の激化や今後の成長持続性への懸念も浮き彫りになっています。本稿では、最新の具体的なデータや事例を交えながら、地銀決算の現状と今後の課題についてやさしく、かつ分かりやすく解説します。
金利上昇がもたらした地銀の増益
2025年3月期決算において、全国の地銀は「金利ある世界」への転換を追い風に、軒並み増益を記録しました。日銀が2024年3月にマイナス金利政策を解除し、さらに2025年1月には政策金利を0.25%から0.5%へと引き上げたことで、貸出金利が上昇し、地銀本業の収益力が大きく改善したのです。
特に注目すべきは、全国地方銀行協会の秋野哲也会長(常陽銀行頭取)が「預金の確保は地銀の大きな経営課題だ」と指摘する中でも、貸出金利の上昇による利ざや改善が地銀経営を大きく押し上げた点です。
具体的な業績データ
地銀全体の増益傾向
2025年3月期、全国80行・グループの連結純利益は前年同期比28%増の1兆2,990億円となり、69行・グループで増益(黒字転換を含む)という力強い結果となりました。
地域別の動向
- 東海3県の地銀6行は全て増益。日銀の金融政策修正により、融資時の金利が上昇し、業績を後押ししました。
- 千葉県内3地銀も連結最終利益が増加。貸出金利の上昇が主因です。
- 九州・山口・沖縄の16グループ・銀行では、ふくおかフィナンシャルグループなどが過去最高益を記録。政策金利引き上げによる利息収入増が顕著でした。
個別行の決算例:群馬銀行
群馬銀行の2025年3月期連結決算では、以下のような数字が並びます。
項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 増減額 |
---|---|---|---|
経常収益 | 2,003億56百万円 | 2,204億35百万円 | +200億79百万円 |
経常費用 | 1,565億67百万円 | 1,584億5百万円 | +18億38百万円 |
経常利益 | 437億89百万円 | 620億29百万円 | +182億40百万円 |
親会社株主に帰属する当期純利益 | 312億25百万円 | 439億円 | +127億74百万円 |
経常利益は前期比約42%増、純利益は約41%増という大幅な増益となりました。これは、貸出金利の上昇による資金運用収益の増加が主因です。
金利上昇の背景と預金金利の動向
政策金利の推移
- 2024年3月:マイナス金利政策解除、普通預金金利が年0.001%から0.020%へ
- 2024年7月:政策金利0.25%へ引き上げ、普通預金金利は0.100%に
- 2025年1月:政策金利0.5%へ引き上げ。これは2008年10月以来17年ぶりの高水準。
この半年間で、普通預金金利は0.001%から0.100%へと100倍に跳ね上がりました。ただし、世界的に見れば依然として低水準ですが、国内では大きな転換点となっています。
時期 | 普通預金金利(主要行) |
---|---|
2024年3月 | 0.020% |
2024年7月 | 0.100% |
2025年1月 | 0.100%~0.200% |
利ざや改善と貸出金利上昇
地銀の本業収益である「利ざや」(貸出金利と預金金利の差)は、長らく超低金利政策のもとで圧迫されてきました。2025年3月期は、政策金利の上昇によって貸出金利が上昇し、利ざやが拡大。これが地銀増益の最大要因となっています。
例えば、地銀の貸出金利は2024年3月時点で1%前後にとどまっていましたが、2025年3月期には1.2~1.5%台まで上昇した銀行も見られます。これにより、資金運用収益が大きく伸びました。
預金獲得競争の激化と今後の課題
一方で、預金の獲得競争が激化している現状も見逃せません。金利上昇を受けて、預金者の間では「より高い金利を求めて銀行を選ぶ動き」が強まっています。地銀各行は、預金金利の引き上げや新たな商品開発によって顧客獲得にしのぎを削っています。
秋野会長は「預金の確保は地銀の大きな経営課題」と述べており、今後も成長軌道を持続できるかは楽観できないと指摘しています。預金流出リスクや調達コストの上昇も、今後の収益構造に影響を及ぼす可能性があります。
地銀の今後の展望と持続的成長への道
金利上昇による増益は、地銀にとって大きな追い風となりましたが、これが一過性のものに終わらないためには、以下のような取り組みが求められます。
- 預金基盤の強化:地域密着型サービスやデジタルバンキングの充実で、顧客ロイヤルティを高める
- 貸出先の多様化・リスク管理の徹底:金利上昇局面では貸出先の返済能力に変化が生じやすいため、与信管理を強化
- 手数料ビジネスの拡大:資産運用やコンサルティングなど非金利収益の拡充
また、地銀再編や経営統合の動きも今後加速する可能性があります。地銀が地域経済の持続的な成長を下支えする存在であり続けるためには、経営の多角化と収益基盤の強化が不可欠です。
まとめ
2025年3月期の地方銀行決算は、「金利ある世界」への転換を背景に、多くの地銀が増益を達成する明るい内容となりました。政策金利の引き上げによる貸出金利の上昇と利ざや改善が主な要因ですが、預金獲得競争の激化や調達コスト上昇といった新たな課題も浮上しています。
地銀が今後も持続的に成長するためには、預金基盤の強化や収益構造の多様化、リスク管理の徹底が求められます。地域密着型金融機関としての役割を果たしつつ、時代の変化に柔軟に対応する経営戦略が、これからの地銀の成否を分けるでしょう。
このように、地銀の決算動向は日本の金融環境の変化を如実に映し出しています。数字の裏側にある現場の努力や課題にも目を向けながら、今後の展開を引き続き注視していきましょう。