物言う株主(アクティビスト)を味方にする企業ガバナンス最前線――法制度と東芝事例で学ぶ実践対策 資本政策・取締役会改革まで完全ガイド2025年版!!

物言う株主(アクティビスト)を味方にする企業ガバナンス最前線――法制度と東芝事例で学ぶ実践対策 資本政策・取締役会改革まで完全ガイド2025年版!!
ライター:関野 良和

物言う株主(アクティビスト)とは

物言う株主(アクティビスト)とは、企業の経営方針や資本政策に積極的に意見を述べ、株主提案や議決権行使を通じて企業価値向上を促す投資家を指します。短期的な株価つり上げを狙うだけでなく、中長期の経営改革を要求する点が特徴です。海外ヘッジファンドに限らず、年金基金や国内運用会社もアクティビスト化が進んでいます。2023年の東京証券取引所調査では、国内企業の約3割がアクティビストから要請を受けた経験があると回答しました。東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」が対話姿勢を後押ししていることも背景です。

本稿では、アクティビストの定義から法制度、代表的な要求手法、国内事例、企業が取るべき対策まで、最新の公式資料をもとにやさしく解説します。

アクティビストの定義と役割

アクティビストは、保有比率が数%でも経営陣に働きかけ、余剰資本の還元や事業ポートフォリオの見直しを迫ります。スチュワードシップ責任を掲げる機関投資家が主体で、議決権行使結果やエンゲージメント記録の公表が求められるなど、透明性を伴う点が大きな特徴です。

金融庁が2025年6月に改訂したスチュワードシップ・コードは「建設的な目的を持つ対話」を投資家に求め、企業価値向上と持続的成長を共有目標に位置付けました。これによりアクティビズムは敵対的イメージから、共創型ガバナンスの一翼として認識されつつあります。

日本の法制度とコード

日本では会社法と金融商品取引法がアクティビスト活動の基本枠組みを定めています。株主は議決権の1%または300個以上を6カ月保有すれば株主提案権を行使でき、5%超を取得した場合は大量保有報告書(5日ルール)の提出が義務付けられています。

さらに2021年改訂のコーポレートガバナンス・コードでは、独立社外取締役の選任や資本効率目標(ROE・ROIC 等)の開示が推奨され、制度(法律)と自主規範(コード)が両輪となってアクティビストと企業の対話を後押ししています。

アクティビストがよく用いる要求・戦術

アクティビストは企業の状況に応じ、次のようなカードを切ります。

  • 配当増額・自社株買いなど資本還元の強化
  • 不採算事業の売却やスピンオフの提案
  • 取締役刷新や社外取締役の追加選任
  • 買収防衛策(ポイズンピル)の撤廃
  • ESG 課題への取り組み改善

これらの要求は、金融庁の「投資家と企業の対話ガイドライン」が示す「目的志向型エンゲージメント」に沿っており、一方的な経営干渉ではなく合理的根拠と建設的対話が重視されます。

国内の注目事例

2022年3月の東芝臨時株主総会では、エフィッシモ・キャピタルをはじめとするアクティビストが会社提案(分割案)に反対を表明し、議案は否決されました。結果として取締役会は上場廃止と非公開化を含む選択肢を検討することとなり、資本政策の根本的見直しに踏み切りました。東芝IR「臨時株主総会の議決権行使結果」

本件は、経営陣とアクティビストの力関係が変化していることを象徴し、他社にも資本政策の透明性向上や説明責任強化を迫る契機となりました。

企業への影響と対策

アクティビストとの対話は、資本コストに基づく経営指標の目標設定や情報開示の高度化を促進し、結果として株主構成の安定化や企業価値向上につながるケースが増えています。一方で、短期志向の提案が企業の長期戦略を毀損するリスクも否定できません。

金融庁のフォローアップ会議資料(2025年6月2日)では、企業が採るべき実務対応として①中期経営計画の定量目標明示 ②資本政策のシナリオ比較 ③社外取締役によるガバナンス検証 ④IR と SR の連携強化が挙げられています。これらを平時から実践することで、アクティビスト提案を契機にしたガバナンス強化を前向きな成長機会へと変えることが可能です。

企業統治改革とアクティビズムの急増

2014年に導入された日本版スチュワードシップ・コードは2020年改訂でESG要素を明示的に組み込み、受入機関は280社を超えました。投資家が建設的対話を行う枠組みが整ったことで、議決権行使の賛否理由開示や自己評価の公表など透明性が向上し、アクティビスト活動の裾野が拡大しています。

加えて2015年以降のコーポレートガバナンス・コード改訂が資本効率指標(ROEや資本コスト)を経営KPIに組み込ませた結果、低評価企業への株主提案が増加しました。2023年には東証プライム上場企業に対する株主提案議案が400件台に達し、10年前の約3倍に膨らんでいます。

ESGを旗印とする新世代アクティビスト

近年は気候変動や人的資本を重視する海外ファンドのみならず、国内の年金基金もESG課題を理由に取締役選任や情報開示を求めるケースが増えています。石炭火力依存度の高い電力会社に対し中期排出削減目標の設定を株主が議案化した事例が2024年に複数観測されました。

ESGアクティビズムは従来の配当・自社株買い要求と異なり、長期リスク低減を通じた企業価値向上を掲げる点が特徴です。経営陣は財務情報に加えてスコープ3排出量や多様性指標の定量目標を示し、対話の質を高めることが期待されます。

東芝案件に見るガバナンス再編の実例

東芝はアクティビストの圧力を背景に2023年9月、TBJH株式会社によるTOB受入れを表明し、同年12月20日に上場廃止となりました。未応募株主への金銭交付は2024年4月11日に完了し、非公開化によって経営再建フェーズへ移行しています。

このプロセスでは取締役会が複数スポンサーを比較し入札を実施するなど、透明性確保と株主価値最大化を両立させる新しいプロトコルが示されました。結果としてTOB価格は直前株価に約34%のプレミアムを上乗せし、アクティビストの経済的要求を一定程度充足した点が注目されます。

企業側のソフトディフェンス策

防衛と言っても敵対的買収防止策のようなハード措置ではなく、資本政策の先回りが主流です。具体例として、①自己株取得枠の常設化、②指名・報酬委員会の委員過半数を独立社外取締役とする、③IR資料で資本コストと算定根拠を開示する、などが挙げられます。

こうしたソフトディフェンスは議決権行使助言会社の反対推奨を招きにくく、長期保有機関投資家からの支持も得やすいとされています。経営陣は中長期ビジネスモデルと資本配分方針を一体で示すことで、アクティビストの提案余地を狭められます。

法的・開示面での留意点

株主提案権は会社法303条に基づき6カ月以上かつ総議決権の1%または300個以上保有する株主に認められます。加えて大量保有報告書(5%ルール)や短期譲渡益返還規制に留意しつつ、13Dに相当する「変更報告書」を速やかに提出する必要があります。

会社側もフェアディスクロージャー・ルールに沿い、アクティビストとの協議内容や情報非対称を是正する手続きを事前に策定しておくことがガバナンス上求められています。取締役会議事録の保存期間やインサイダー情報管理ポリシーの明確化がその一例です。

国内機関投資家の態度変化

GPIFや地方公務員共済などアセットオーナーは、受託者責任に基づき議決権行使の理由を開示する方向へ舵を切っています。2023年度のGPIF議決権行使結果では反対比率が前年度比3ポイント上昇し、とりわけ社外取締役選任議案への厳格姿勢が目立ちました。

この動きは「黙して保有」から「意見を表明し対話する」ステージへの転換を示し、外国人アクティビストと協調するケースも増えています。結果として提案可決ラインの目安だった30%賛成が40%超に引き上がる場面もあり、経営陣のリスク認識が高まっています。

統計データで読む市場の現状

東証の統計月報によれば、2024年度の株主総会シーズンに提出された株主提案はプライム・スタンダード合計で489件と過去最多を更新しました。議案の内訳は配当・自社株買い関連が32%、取締役選任が28%、ESG関連が13%など多岐にわたります。

また委任状争奪戦の告示件数は10件弱に留まるものの、議決権電子行使プラットフォームの利用率が90%近くに達し、個人株主の議決権行使率も向上しています。デジタル化がアクティビストのキャンペーン費用を下げ、市場全体でエンゲージメント活動が一般化しつつあります。

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
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