物言う株主「3Dインベストメント・パートナーズ」を徹底解説――日本企業の“眠る価値”を呼び覚ますアクティビストの素顔


3Dインベストメント・パートナーズとは?
3Dインベストメント・パートナーズ(以下3DIP)は2015年、長谷川謙也氏がシンガポールで創業した投資運用会社です。本社はミレニアタワーに置き、日本企業への集中投資で「眠れる企業価値の解放」を掲げます。社員は約30名、運用資産は数千億円規模とされています。企業理念には「Integrity before everything」を掲げ、投資先・社会・投資家との信頼関係を最優先に行動する姿勢が強調されています。3D公式サイト
同社は日本版スチュワードシップ・コードに基づく議決権行使方針を公表し、ガバナンス改善を促す“長期エンゲージメント型アクティビスト”として注目されています。販売手数料を排した報酬体系で投資家との利害を一致させ、内外の機関投資家から資金を集める点も特徴です。
日本企業に焦点を当てたバリュー投資戦略
3DIPはROEや資本効率に改善余地がある上場企業に5~20%規模の持分を取得し、経営陣へ資本政策・事業ポートフォリオ改革案を提示します。提案書には詳細なDCFモデルや不動産鑑定結果まで添付し、経営側が実行可能と判断できる代替案を示すのが流儀です。
まずは非公開での対話を優先し、協議が平行線をたどる場合のみ公開書簡や株主提案に踏み切る“段階的アプローチ”が同社の基本姿勢です。このため敵対的なイメージが先行しがちなアクティビストの中でも、「建設的な物言う株主」として評価されています。
物言う株主としての主な提言事例
- サッポロホールディングス(持分約16%):遊休不動産のスピンオフと資本効率向上を要求。潜在資産4,000億円との試算が株価材料に。
- 富士ソフト(21%):買収提案の公正評価を目的に社外監査人選任を要求し、独立取締役2名を送り込む。
- 東北新社(18%):1株600~650円での非公開化を提案、特別委が審議中。
- NSソリューションズ(10%):親会社・日本製鉄との資本関係見直しと余剰資金の活用を提言。
- 東芝(約7%):ガバナンス再建と戦略オプションの徹底検討を求め公開書簡を送付。
なぜ今、日本でアクティビストが注目されるのか
東証が2023年に実質的なPBR1倍割れ企業への改善要請を発表し、企業側は資本コストと成長戦略の説明責任を迫られるようになりました。加えて円安で海外ファンドにとって日本株が割安に映る中、現預金や不動産など眠るアセットを多く抱える企業がターゲットになりやすい環境が整っています。3DIPはこうした構造的“価値の歪み”に焦点を当て、実践的な改善案を示すことで存在感を高めています。
3DIPのアプローチが際立つ理由
同社は提案資料や株主向けプレゼンテーションを日本語と英語の両方でサイト上に公開し、透明性を確保します。また、経営陣のメンツを保ちながら改革を実現するため、取締役候補のリクルートや不動産売却ルートの紹介まで手厚くサポートする点が他のアクティビストと一線を画します。さらに提案が実現した後も中長期にわたり経営指標をモニタリングし、再度の対話に備える継続的フォローアップ体制を敷いています。
投資家・企業が得られる示唆
- 投資家:3DIPの提言企業は資本政策変更や資産売却が材料視されやすく、イベントドリブン戦略の参考になる。
- 企業経営者:対話を恐れず、資本コストと成長投資を開示することで株主との協調路線を築ける。
- 政策当局:アクティビストの存在はROE改善や市場活性化につながるため、対話型ガバナンスの制度整備が不可欠。
- 個人投資家:公開資料から提案内容を読み解くことで、企業価値の「隠れ資産」を発見する視点が養われる。
ファンドの成り立ちと運用哲学
3Dインベストメント・パートナーズ(以下3D)は、2015年に長谷川謙也氏がシンガポールで設立したアクティビストファンドです。公式サイトによれば「日本企業の中長期的価値向上」を掲げ、重点投資とエンゲージメントを融合させる方針を徹底しています。創業者はゴールドマン・サックスやTudorなどでの豊富な投資経験を持ち、「Integrity before everything(まず誠実さ)」をコアバリューに据えています。長期視点での企業価値創造を強調しつつも、必要に応じて株主提案や取締役選任反対など強い手段も辞さない点が特徴です。公式サイト
主なエンゲージメント事例―東芝から映画会社まで
国内で3Dが広く知られた契機は2022年3月の東芝臨時株主総会です。3Dは当時第2位株主として「買収提案の公募」という提案を提出し、経営陣の分社化案と共に否決されたものの、議論を通じてガバナンス改革の必要性を世に示しました。CNBC報道 また、2024年7月には東北新社へのTOB提案を発表し、18%保有の立場から非上場化による機動的経営を提案しています。買付価格は600~650円で終値に最大15%のプレミアムを付け、市場に衝撃を与えました。ロイター
資本効率とPBR改善への執念―鉄鋼大手への提言
2025年6月、3Dは日本製鉄に対し取締役再任反対を呼びかけるプレゼンテーションを公開しました。PBR0.5倍という「コングロマリットディスカウント」を問題視し、米USスチール買収や10兆円規模の設備投資計画に定量的根拠が乏しいと警鐘を鳴らしています。株主還元方針や資本コストの開示強化、独立社外取締役の拡充を求める提案は、長期的価値向上とリスク管理を両立させる3D特有のアプローチと言えます。詳細資料はファンドが公開するPDFで確認可能です。3D資料
投資家・市場の反応と成果指標
3Dが関与した企業では、提案発表後に株価が短期的に5~20%上昇するケースが多く、マーケットは改善期待を織り込みやすい傾向があります。一方、東芝のように提案が否決された場合でも、議論自体が継続することで経営陣に透明性向上を促す副次効果が指摘されています。またPBR1倍割れ是正を政府も促す中、3Dの具体策は議論のたたき台となり、他機関投資家や議決権行使助言会社が追随する場面も増えています。成果を測る指標として、①株価とPBRの改善率、②配当・自社株買い増額、③独立社外取締役比率の上昇が用いられ、3DはこれらKPIを四半期ごとにフォローアップしています。
今後の課題と日本型アクティビズムの行方
一連のエンゲージメントで浮き彫りになったのは、企業側の情報開示不足と対話窓口の限定性です。3DはIR部門に留まらず経営トップ・社外取締役との直接対話を求めるものの、実現率はまだ高くありません。また、TOB提案時にはプライム上場維持要件(流通株比率25%以上)など東証ルールとの整合性も検討課題となります。とはいえ、コーポレートガバナンス・コード改訂や資本効率重視の政策追い風がある現在、3Dの活動は“物言う株主”が企業変革を後押しする好例として注目を集め続けるでしょう。投資家・企業・規制当局の三者が建設的対話を深められるかが、日本型アクティビズム進化の試金石になります。
