ダルトン・インベストメンツ徹底解説|物言う株主の戦略・勝利事例・今後の注目点を網羅

ダルトン・インベストメンツ徹底解説|物言う株主の戦略・勝利事例・今後の注目点を網羅
ライター:関野 良和

ダルトン・インベストメンツとは

ダルトン・インベストメンツ(Dalton Investments)は1999年に米国ロサンゼルスで創業された独立系運用会社です。東京、香港、ニューヨークなど世界八都市に拠点を構え、2024年3月末時点で約44億米ドルを運用しています。創業者ジェームズ・B・ローゼンワルドⅢ氏は40年以上にわたりアジア株投資に携わり、「バリュー投資×アクティビズム」を軸に企業価値の向上を図ることで知られます。詳しい沿革や運用哲学は公式サイトで公表されています。公式情報

ダルトンは「シンメトリック・アライメント」を掲げ、経営陣と株主の利害が一致している企業を厳選投資します。経営と対話しつつ株主提案や議決権行使でプレッシャーをかけることで、流動性の低い日本株でも株価ギャップ解消を狙います。長期保有を前提にしながら、必要に応じて“物言う株主”として行動する点が、単純なイベントドリブン型ファンドと一線を画しています。

日本市場でのアクティビズムの特徴

ダルトンが日本企業に対して行う提案は、①自己株式の取得・消却②資本コストを意識した経営③取締役会の独立性向上――の三本柱に集約されます。2025年2月には江崎グリコ、ノーリツ、三菱鉛筆など5社に対し定款変更や自己株買いを求める株主提案を提出しました。プレスリリース

  • ROEやROICを開示し資本コストを下回る投資を抑制
  • 余剰現金の持ちすぎを是正し配当・自社株買いを拡充
  • 社外取締役比率の引き上げでガバナンスを強化

東京証券取引所が2023年に要請した「資本コスト・株価を意識した経営」の流れと合致しており、提案内容は市場全体のガバナンス改革を後押しするものと評価されています。

提案件数と主な勝利事例

ダルトンは2024年~2025年シーズンだけで20件以上の株主提案を提出し、アクティビストファンドの中でも提案数は国内最多級です。なかでも注目を集めたのが保医用品メーカー・ホギメディカルでの取締役選任案です。2025年6月の株主総会で創業者ローゼンワルド氏が取締役に就任し、議案は52.1%の賛成で可決されました。米系ファンドが日本企業の取締役ポストを獲得した稀有なケースで、機関投資家の支持を示す象徴的な勝利といえます。LinkedIn発表

さらに、富士メディアホールディングスに対しては2025年4月、12名の社外取締役候補を提案し、不動産事業の分社化など構造改革を迫りました。旧来型メディア企業に対して“資産効率の改善”を真正面から訴えたことで、国内メディアでも大きく報じられています。報道

今後注目すべきポイント

①政策保有株の解消が進む銘柄②現預金比率が高く株価純資産倍率(PBR)が1倍を下回る銘柄――はダルトンのターゲットになりやすいとみられます。株主提案は可決が目的ではなく「企業に議論を強いること」自体に意義があると同社は強調しており、賛成率20%台でも企業側が譲歩するケースが増えています。

投資家にとっては、ダルトンが大量保有報告書で「目的:経営参加」へと変更した瞬間が重要なシグナルです。議決権行使助言会社や年金基金もガバナンス重視に舵を切る中、同社の動向は2026年の株主総会シーズンもマーケットの注目を集めるでしょう。

主要アクション事例:フジ・メディアHDへの株主提案

背景

2024年末、旧ジャニーズ問題で揺れるフジ・メディアホールディングス(FMH)のコーポレート・ガバナンスに疑義を抱いたダルトンは、保有比率約5.8%を背景に経営刷新を要求。2025年4月の株主提案で北尾吉孝氏ら12名を取締役候補に指名し、旧来体制の一掃と不動産事業の分離を訴えました。提案書全文は同社公式サイトで公表されています【Dalton公式】

2025年総会の攻防と結果

株主総会当日(2025年6月25日)、会場には個人株主を中心に約3,000人が来場。FMHはクロスシェア比率3割超の防御壁を維持し、会社提案11名は可決、ダルトン提案12名は全員否決となりました。ただし賛成率は最高で28%に達し、ダルトン側は「変革への第一歩」と評価しています【Dalton公式リリース】

江崎グリコへのエンゲージメント

ダルトンは2023年12月期グリコ株主総会で四つの定款変更・自己株取得案を提出。賛成率は開示強化30.1%、株主還元関連42.9%と健闘し、過剰現金600億円超の活用とROE向上を迫りました【Dalton日本語ページ】。提案は否決されたものの、同社は対話継続を表明し、市場でも資本効率改善期待が高まっています。

個人投資家向け商品と運用規模

2024年10月、明治安田アセットが国内個人向け「ダルトン・ジャパン・パートナー戦略ファンド」を設定。ダルトンの運用資産残高は約44億ドル(2024年3月末)、うち75%が日本株で、東京チーム5名が専任分析を担います【明治安田AM資料】。自己資金を共に投じる「同舟制」が特徴で、利害の一致を強調しています。

ダルトン流アクティビズムの特徴

①長期保有と割安改善の両立、②経営陣との対話重視、③取締役会に専門家を送り込む「構造改革型」が三本柱。クロスシェア解消や非中核資産の売却を提案しつつ、敵対的買収は否定する“フレンドリー・アクティビスト”です【Navibaseアクティビスト一覧】。創業者ジェイミー・ローゼンワルド氏は50年以上日本株に携わり、投資哲学を「ミスプライシングの是正」と語ります。

批判とリスクへの向き合い方

メディアでは「短期利益目的」との懸念も報じられました【日刊ゲンダイ】。一方FMHは「64回の対話」を主張し、双方の見解が対立【朝日新聞】。ダルトンは公式声明で「面談は2回のみ」と反論し、情報開示の透明性を訴えています。株主還元拡充や独立性重視の取締役候補提示など、批判を逆手に取りガバナンス改革の必要性を示す姿勢が際立っています。

タグ:
執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
関野 良和の執筆記事一覧・プロフィールへ