カリフォルニア年金も出資した「タイヨウ・パシフィック・パートナーズ」とは?友好的アクティビストの戦略と最新事例を解説
タイヨウ・パシフィック・パートナーズの基本情報
タイヨウ・パシフィック・パートナーズ(以下、TPP)は2001年に米ワシントン州カークランドで創業された、日本株に特化したアクティビストファンドです。創業者ブライアン・ヘイウッド氏らが「企業と協働しながら価値を引き出す」ことを掲げ、2025年10月時点で約21億ドルを運用しています。国内の中小型株を中心に10〜20社へ集中投資し、経営陣と対話しながら中長期で株主価値と社会的価値の両立を図る点が特徴です。拠点は米国本社のほか東京・千代田区にもリサーチ拠点を置き、現地密着型の調査体制を敷いています。公式サイト
「フレンドリー・アクティビズム」の手法
TPPが掲げるのは「フレンドリー・アクティビズム」。敵対的提案やメディアでの批判よりも、経営陣と膝詰めで議論し、ガバナンス改善・資本効率向上を提案するスタイルです。経営と利害が一致するように、取締役就任やストックオプション提案でインセンティブを共有し、合意形成後は5年以上の保有を通じて成果をモニタリングします。日本的経営文化への配慮を軸に、英語と日本語の両言語で提案書を提示し、社外取締役の国際化や自社株買いの最適化を支援するなど、穏健ながら実効性の高い改善策を重ねてきました。公式インタビュー
主なエンゲージメント事例:ローランドDGへのTOB
2024年2月、TPPはインクジェットプリンタ大手ローランドDG(6789)のMBOを目的に1株5,035円でTOBを表明しました。発表後にブラザー工業が5,200円で対抗買収を仕掛け、市場初の〈三つ巴TOB〉に発展。TPPは19%強の筆頭株主として「経営の自律性を守る価格競争」を促し、結果的に株価は発表直前比で約2倍まで上昇しました。ローランドDG側リリースでも両社との協議が逐次公表され、2024年5月には臨時株主総会開催のための基準日設定がIRに掲載されています。友好的対話を重ねつつも、必要に応じて市場で価格発見を行うTPPの柔軟性が注目を集めました。ローランドDG IR
ESG・スチュワードシップへの取り組み
TPPは日本版スチュワードシップ・コード受入れ宣言済みで、議決権行使結果や自己評価を毎年公開しています。2025年時点のウェブサイトでは「2025 Proxy Voting Report」を掲載し、取締役選任や社外取締役比率など主要議案への賛否を詳細に開示。ESGではCO₂排出量開示の支援や女性役員比率向上を投資先に提案し、同社の投資委員会にはサステナビリティ専門家が参画しています。透明性と長期的視点を両立させる姿勢は年金基金や大学基金など機関投資家からの信頼を高める要因となっています。Stewardship Report
運用規模・パフォーマンスと出資者
TPPの主力は「Taiyo Fund」「Taiyo Pearl Fund」「Taiyo Cypress Fund」の3本で、累計コミットメントは約40億ドル。投資家層は北米公的年金・大学基金・欧州ファミリーオフィスが中心で、創業当初には米カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)がアンカー投資家として参加したことでも知られます。直近5年間の年率リターンは8〜12%(USドル建て、手数料後)と、TOPIX配当込み指数を概ね上回る水準を維持。集中投資ゆえにボラティリティは高めですが、下落局面では企業との協働再建でバリュー回復を狙う戦略が機能してきました。ファンド概要
日本企業への影響と今後の論点
東証が2023年に示した「資本コスト・株価意識の向上要請」以降、国内外アクティビストが急増するなか、TPPの友好的アプローチは「対立より協働」を重視する企業側と親和性が高く、指名委員会設置会社への移行や自社株買いの迅速化など具体的行動につながりやすい点が評価されています。一方で、ローランドDGの事例が示すように、友好姿勢でも結果的に買収合戦を誘発する可能性があり、価格決定プロセスの公正性や情報開示タイミングが今後の論点となります。日本市場にとっては、ガバナンス強化と資本市場の厚みを両立させる触媒としてTPPの動きを注視する必要があります。