iPS心筋シート「リハート」が9月1日保険適用へ―中医協了承で秋に販売開始、重症心不全治療を一変
iPS心筋シート「リハート」、中医協が保険適用を了承
厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)は2026年7月22日、第653回総会で同種iPS細胞由来心筋細胞シート「リハート」の保険収載を承認しました。適用開始日は同年9月1日で、販売開始予定の“秋ごろ”と同時期に公的保険が使える見通しです。虚血性心筋症による重症心不全で標準治療の効果が不十分な患者が対象となり、治療費負担は大幅に軽減されることになります。詳細は中医協の資料で公開されています。厚生労働省 中医協資料
今回の決定により、日本で承認されたiPS細胞由来の再生医療等製品は、パーキンソン病治療薬「アムシェプリ」に続き2例目の保険適用となります。再生医療分野では、基礎研究から臨床応用まで一貫して国内企業と大学が連携してきた実績が評価されており、保険導入は「実用化フェーズ」の象徴的な一歩といえます。
販売開始は“秋ごろ”―臨床現場への導入スケジュール
製造販売元のクオリプス株式会社は「9月の保険収載後、10月中には初回出荷を目指す」と発表しています。まず心臓外科・循環器内科を擁する高度急性期病院10施設程度で導入し、使用実績を蓄積したうえで順次全国へ拡大する段取りです。移植手技を担う医師へのトレーニングプログラムは7月下旬からオンラインと対面で実施されており、早ければ年内に50例規模の症例登録が始まる計画です。クオリプス 製品情報
- 2026年7月~ 導入施設選定・術者トレーニング
- 2026年9月1日 保険収載(区分C2 特定保険医療材料)
- 2026年10月 初回出荷・症例登録開始
- 2027年3月 中間安全性評価報告(条件・期限付き承認の要件)
製品の概要と治療対象
リハートは京都大学iPS細胞研究所(CiRA)が提供する「医療用iPS細胞ストック」を原料に、心筋細胞を大量培養し多層シート化した再生医療等製品です。直径約5センチ、厚さ0.1ミリのシートを心臓表面に貼付するだけで、切開や縫合を伴う高度な外科処置を必要としない点が特長です。心筋組織から分泌されるサイトカインや成長因子により、血管新生と線維化抑制を誘導し、左室駆出率(LVEF)の改善が報告されています。PMDA 審査報告書
治療対象は「薬物療法・外科的治療・デバイス治療を含む標準治療を受けても症状が進行する虚血性心筋症による重症心不全患者」。臨床試験ではNYHA分類III~IVの患者を対象に、6か月後のLVEF中央値がベースライン比+8.7ポイント、主要評価項目を達成したと報告されています。免疫拒絶反応を抑えるため、投与後1年間は免疫抑制剤を併用します。
重症心不全患者にとっての新たな選択肢
国内の重症心不全患者は推計約6万人。心臓移植の年間実施数が70例前後にとどまる中、リハートは「橋渡し治療」として大きな期待が寄せられています。特に高齢で移植適応外の患者や、補助人工心臓(VAD)装着が難しい症例に対して、QOLを保ちながら在宅療養を可能にする点が注目されています。Cuoripsは、保険適用に合わせて「遠隔モニタリングアプリ」を無償提供し、術後フォローアップを支援するとしています。
保険収載までの経緯
リハートは2024年4月に医薬品医療機器総合機構(PMDA)へ製造販売承認を申請し、2026年3月6日に条件・期限付きで承認を取得しました。その後、企業治験データや早期導入医療機関の安全性報告をもとに保険償還価格(区分C2: 特定保険医療材料)を協議。2026年7月22日の中医協総会で正式に収載が了承され、同年9月1日付で診療報酬点数表告示が予定されています。再生医療製品ではハートシート、アムシェプリに続く3製品目のC2収載となります。
- 2024年4月 PMDAに承認申請
- 2026年3月6日 条件・期限付き製造販売承認
- 2026年7月22日 中医協総会で保険適用了承
- 2026年9月1日 診療報酬点数表告示・収載
条件・期限付き承認のポイント
リハートは上市後も有効性・安全性データを3年間収集し、期限内に本承認を再申請する義務があります。主要評価項目は「移植後1年時点のLVEF改善」と「致死的不整脈発生率」。企業は全国症例を対象にレジストリを運営し、データはPMDAと共有されます。条件を満たせなかった場合は販売一時停止や回収の措置が取られる可能性があるため、医療機関・患者の協力が不可欠です。
医療機関・患者への影響と今後の課題
公的保険による自己負担軽減により、患者は高額療養費制度を活用すれば実質数万円で治療を受けられる見込みです。一方、細胞製造や輸送にかかるコストが高く、病院側の在庫管理や術後モニタリング体制の整備が課題となります。Cuoripsは24時間体制のカスタマーサポートと、術後2年間の無償代替保証を提供し、導入負担を軽減するとしています。
また、他家iPS細胞を用いるため、長期的な免疫抑制の副作用や腫瘍化リスクについても厳重な追跡が求められます。中医協は収載後1年をめどに費用対効果評価を行い、薬価・償還価格の見直しを行う方針を示しています。臨床データが積み上がることで、海外での承認申請や価格交渉にも好影響が期待されますが、そのためにも国内での適正使用・情報公開が鍵となります。